宮崎駿監督の「風立ちぬ」鑑賞。
宮崎駿が描く空への憧れと大人の恋物語。宮崎駿監督の最高傑作ではないかと思えるくらいの作品で、深く感動させられました。久石譲の優しい調べと荒井由美の「ひこうき雲」がさらに感動を誘います。
1. 宮崎駿監督が描く空への憧れ
ゼロ戦設計者・堀越二郎と作家の堀辰雄をモデルに1930年代の日本で飛行機作りに情熱を傾けた青年の姿を描いた「風立ちぬ」。
美しい飛行機作りに熱中する堀越二郎。夢に出てくる飛行機が飛ぶ姿や実際に飛行機が飛ぶシーンを見ていると宮崎駿監督の「風の谷のナウシカ」や「天空の城ラピュタ」、「紅の豚」など今までの作品の空を飛翔するシーンを彷彿させ、ワクワクさせてくれつつ、実際の飛行機の設計に熱中する現実世界をうまく結びつけていて、堀越二郎の空へ憧れる気持ちが熱く伝わってきます。
2. スタジオジブリ作品初の大人の恋物語
イタリア人飛行機製作者カプローニを尊敬し、美しい飛行機を作ることを夢見る堀越二郎。
そんなある日に関東大震災のさなか汽車で出会った菜穂子と再会。二人は恋に落ちるが、菜穂子が結核にかかってしまう…
堀越二郎と菜穂子が初めて出会う汽車でのシーンや再会するシーンでは今までの作品のヒーローとヒロインの出会いを彷彿させるファンタジックな展開をしつつ、二人が恋に落ちていくシーンではスタジオジフリ初の大人の恋物語に仕上げてくれています。
3. 舞台は大正から昭和にかけての閉塞感に覆われた日本
閉塞感に覆われた日本を宮崎駿監督ならではの感覚で表現していて、ストーリーも説明的にならずに淡々と見せてくれて、その手法がかえって、心に刺さってきます。
関東大震災のシーンではリアルさを追求せずに見せているだけにかえって、その大震災の怖さを浮立たせてくれます。街中が火事に覆われるシーンを見ていると「風の谷のナウシカ」の巨神兵が街を暴れて、破壊していくようで、さらに怖さを引き立ててくれます。
4. 久石譲の優しい調べと荒井由美の「ひこうき雲」
今までの宮崎駿監督作品と同じく、音楽は久石譲。久石譲ならではの優しい調べと覚えやすいテーマ曲が何度も何度も流れてきて、心地よくさせてくれます。飛行機が空を飛ぶシーンがさらに光り輝くのはこのテーマ曲の優しさがあるからです。
そしてエンドクレジットで流れる荒井由美の「ひこうき雲」。今まで予告編で何度も聞いていた曲のはずなのに、この作品のエンドからつながって流れてくる「ひこうき雲」。
メロディと歌詞が作品のエンドにふさわしく、感動をさらに深くしてくれます。
http://www.youtube.com/watch?v=-Q6pStcvr4U
この「風立ちぬ」は賛否両論が両極端に分かれているようですが、自分にとっては宮崎駿監督の最高傑作ではないかと思えるくらいの作品で、いろいろと深く考えさせられ、感動させられました。
宮崎駿監督がなぜこの作品を作ろうと思ったのか。空への憧れとその果てに見える厳しい現実。堀越二郎と菜穂子の大人の恋物語。
“風立ちぬ、いざ行きめやも”の言葉の持つ意味も深く、感慨深い思いにさせてくれます。
ただし堀越二郎と堀辰雄をモデルにしつつも完全に寓話に仕立てている点と堀越二郎の声を演じる庵野秀明にはかなり疑問でした。
庵野秀明の声は途中からは違和感がなくなりつつも、最後までなじまなくて、瀧本美織、西島秀俊、西村雅彦、竹下景子と比べると実力が歴然としているのがさらにわかってしまい、そこが残念な点です。
大きなスクリーンでじっくり味わいたい作品で、何度見ても新しい発見がありそうです。